大切なのは機器や設備じゃない。「場を清め、礼を正し、時を守る」の声にこめた社長・岩本の思いとは
「環境への配慮は当たり前」という業界の中で
ここ数年、海外でも日本でも、環境問題がより深刻に受け止められるようになりました。
創業以来ずっとリサイクル事業を手がけてきた興栄商事にとっては、環境に寄与することそのものが仕事です。会社として利益を追求しつつ、その活動が地球環境の保全につながっていく。ある意味では恵まれた業種だと言えるのかもしれません。
振り返ってみれば、日本の製造業時代のスキームはバブル期を最後に崩壊しました。それは日本における「大量生産・大量廃棄の時代の終焉」でもありました。
経済というものは無理や無駄が積み重なっている側面もあります。しかし無理や無駄が行き過ぎると環境破壊につながり、やがては自分たち自身の首を絞めていく。そんなことを日本人は学んだのです。
当社が創業した1995(平成7)年頃には、日本社会はすでに土壌汚染や大気汚染の問題を経験し、「経済発展を追いかけるだけではダメなのだ」という認識が広まっていたように記憶しています。私たちが属する業界も、単に産業廃棄物を集めるだけではなく、いかに環境に配慮していけるかが求められるようになっていました。
興栄商事の主な取引先は企業ですが、その現場ではいわゆる環境ISO(ISO14001)の取得が取引条件になるなど、現在では環境を無視していてはこの業種の経営は成り立たない状況です。
つまりこの業界では「環境に配慮して経営すること」は当たり前。
その上で、興栄商事はどんなことに注力しているのか。この場を借りて説明させてください。
企業も個人も、テクニックや小手先の知恵では長続きしない
「場を清め、礼を正し、時を守る」
ちょっと古くさい言い回しかもしれませんが、私は社是のごとく、毎日のように社内でそう呼びかけています。
まず、働く環境はきれいでなければダメだと思っています。乱雑な場所で仕事をする無頓着さや鈍さは、社会人として致命的。これは私個人の考えですが、汚さが気にならない人は、お客さまや同僚、上司の心の変化にもなかなか気づけないものだととらえています。そのままでは、「自分のことばかりやっていればいい」という発想になりかねません。
そして、礼を正す。社内でも社外でも、礼儀よく対応されて気分の悪い人はいないはずですよね。
時間を守ること、時間を上手に使うことも大切です。人には限られた時間しか与えられていません。働き方改革でどんどん労働時間が短くなっていくということは、それだけ作業効率を上げなければならないということでもあります。
ちなみに、私はビジネスとスポーツには似ている部分が多いと感じています。スポーツの世界で強豪チームと言われるところは、意外と練習時間が短いのです。断言はできませんが、弱いチームほどだらだら練習しているもの。「夜遅くまで練習しているチームは弱い」という傾向は、ビジネスにも言えると思いませんか?
場を清め、礼を正し、時を守る。
これらは人としての生き方そのものであり、テクニックや小手先の知恵などではありません。会社も個人も、テクニックや小手先の知恵では、到底長続きしないと思うのです。
私たちのお客さまとなる企業は、初めての取引の際には、廃棄物やリユース品を預ける先として「この会社に任せても大丈夫なのか」という不安を抱えるはずです。企業にとって廃棄物の処理、ことにIT関連の廃棄は信頼問題に関わる重要ごとだからです。
その不安を理解して、私たちは信頼関係に変えていかなければなりません。いくら耳に聞こえの良い提案ができても、信頼関係をすぐに築けるはずはない。
場を清め、礼を正し、時を守る。
しつこいようですが、これしかないと思っています。

「無理なコミットはしない」という約束
そんな生き方を大切にしていった先に得られるものは何か。
それは、世の中やお客さま、周囲の人の変化に気づける「気配りの力」です。
先進国として成熟した国家である日本では、幸せの価値観が変わってきています。一昔前は仕事=幸せで、「24時間働けますか」というCMソングが流れ、モーレツに働き続けることが社会人のかっこよさとしてとらえられていました。
でも今の若い人たちは、そんな価値観から抜け出しています。一方で企業は、絶対に生き残らなければいけないという責任を背負っています。
働く人の価値観が変わっても、あるいは経営者が変わっても、興栄商事としての軸はぶれてはいけないのです。それは、お客さまの変化に気づいていくことでしかありません。お客さまの要望や社会の要請はどのように変化しているのか。それに気づける気配りが大切です。
また、お客さまは興栄商事に「安全」「安心」を求めています。そのコミットは絶対にやぶってはいけないもの。
一時期、ある世界的ITメーカーは「すべての人のすべてのサービスを」と謳っていました。しかし今はそんな時代ではありません。無理なコミットをするわけにはいきません。
できないことをやろうとするから無理が生じ、無理なコミットをするからコンプライアンス違反が生まれます。だから、地に足を付けて自分たちにできることを見極め、責任を持ってコミットしていかなければならないと思っています。
デジタルトランスフォーメーションの流れの中で、お客さまの要望は高まり続けています。IT機器の入れ替わりや廃棄に伴い、セキュリティに対する高い安全性と、情報漏えいを絶対に起こさないという信頼性はこれまで以上に求められていくでしょう。
どれだけ最新鋭の設備をそろえても、それだけでは安全性と信頼性を確立することはできません。本当に大切なのは「人」。だからこそ私は、一人ひとりの生き方についてのメッセージを常に発信しています。

決して気を緩めることなく、地道な作業にもこだわり抜く
少しだけ未来の話もさせてください。
私たちの業界に対して、これから求められるものは何でしょうか?
一般家庭では、指定日にごみをまとめて出せば処理が終わります。企業も同じで、私たちのような回収業者が廃棄物を持っていった時点で処理が終わります。
しかし私たちは、廃棄物を回収してからがスタート。
お預かりした廃棄物を再資源化できるかどうかが当社の経済原資につながるため、「資源となり得るもの」を徹底的に見極め、分別しなければなりません。その現場では横着は許されず、限られた時間の中でこだわり抜かなければならないのです。
環境に関する法令の中でも再資源化は明文化されています。
昭和の時代には、企業から出る有害な廃棄物が重大な公害をもたらしました。その教訓を経て廃棄物処理法が整備され、現在では車のリサイクルにかかる費用を購入時に支払うなど、企業や個人の法的な責任が明確化されました。
こうした国の制度や法令が厳しくなればなるほど、「ちゃんとやっている会社」が生き残っていくはずです。
興栄商事では法務部が中心となり、法令に則った対応を徹底しています。同時に、法令の変化を素早くキャッチし、契約のあり方も時代に合わせて見直しを続けています。
そして昨今、産業廃棄物の中でも特に重要なテーマとなっているのが「情報を守ること」です。個人情報のデータ流出が世界的な問題となっている今、ハッキング対策も含めて、いかに情報を守るかがすべての企業に問われているのです。
興栄商事は大規模な工場を持ち、プラントにおいても再資源化と情報をしっかり破壊できる設備を整えています。売り上げや社員数、拠点数へのこだわりはありませんが、マーケットとお客さまの変化をいち早く察知し、必要に応じて規模の拡大も進めていくつもりです。
25年にわたり蓄積してきたノウハウは、海外でも生かせると感じています。国内の不用品を海外へ転売していくような事業だけでなく、廃棄物回収や再資源化そのものを海外で展開することもあり得ます。
今後はどんな産業でも、単純作業はAI化していくでしょう。しかし、興栄商事が大切にしてきた気配りの心は、AIには決して真似できないものだと自負しています。
決して気を緩めることなく、地道な作業にもこだわり抜いて向き合っていく。そうして世の中とお客さまの変化に応えていく。
そんな気配りのできる会社、気配りのできる人間の集まりであり続けることが、興栄商事の現在地であり、これからの最大の目標でもあると信じています。